【イベントレポート】

ユビキタスネットワーク時代の展望〜デジタル家電フォーラム2002

■URL
http://www.jesa.or.jp/dhaf2002/top/index.html

 5日、社団法人電子情報技術産業協会デジタル家電部会主催によるイベント「デジタル家電フォーラム2002」が、東京商工会議所で開催された。3日目にあたるセッションCでは「ユビキタス時代のインフラ・コンテンツ・端末機器の将来像」と題して、総務省や企業の取組みや目指すべき方向性が発表された。

渡辺克也氏

 基調講演には、総務省情報通信政策局研究推進室長の渡辺克也氏が登壇し、「ユビキタスネットワーク技術の将来展望〜何でもどこでもネットワークの実現に向けて」と題した講演を行なった。

 渡辺氏はまず、ユビキタスネットワーク社会のイメージを語り、「20年前のニューメディア、10年前のマルチメディアなどと、夢の将来像を描いているという点では似ているかもしれない。だが、これらと決定的に異なるのはネットワーク化するということ」と述べた。また、「ユビキタスネットワークのトレンドは、空間・地理的な制約だけでなく、通信能力、通信対象、端末やサービスコンテンツの選択など、さまざなな制約からの解放」と語った。総務省では、2001年11月に「ユビキタスネットワーク技術の将来展望に関する調査研究会」を開催したほか、2002年6月からは社団法人情報通信技術委員会が事務局となって「ユビキタスネットワーキングフォーラム」の活動を開始したという。

 続けて渡辺氏は、ユビキタスネットワークが実現した暁のメリットを強調する。今日のIT化は米国の技術主導で実行されているが、ユビキタスネットワークに必要なフォトニック、モバイル、情報家電などの技術は日本が得意とする分野だ。「ユビキタス市場の規模は、2005年には30.3兆円、2010年には84.3兆円規模になると予測され、日本が世界の先導的役割を果たす」と分析した。さらに、「超小型ICチップなどを用いることで、薬剤や食品の品質保持期限を管理するなど安心できる社会生活の実現」や、「場所を問わないネットワークアクセス環境によりSOHOなどの多様な就労環境が実現し、人的移動に伴うエネルギーの低減化」といった環境問題の解決につながるという。

 欧米でもユビキタスネットワーク社会への取組みが実施されている。欧州では「第5次フレームワーク(ISTプログラム)」が1999年から2002年までに総額149.6億ユーロ(約1兆4,000億円)の規模で進行中だ。また、米国では政府主導による「LSNプロジェクト」や、MITの「Oxygenプロジェクト」「Auto ID Center」、ワシントン大学の「Portolano」など産学官連携体制で「ITといった漠然とした目標ではなく、ユビキタスそのものをテーマとした研究が進んでいる」という。

 日本でも、2002年6月18日に出された「e-Japan重点計画2002」の文中に、「すべての機器が端末化する遍在的なネットワークへの進化を目指す」という一文が盛り込まれた。渡辺氏は、「従来の文書と違って、総務省が2005年までに関連ネットワーク技術の実用化をせよと具体的に明記された。これは、政府の公約みたいなもの」とコメントした。

 そこで総務省では、ユビキタスネットワークの基本コンセプトと将来イメージをまとめている。まず基本コンセプトでは、「どこでもネットワーク」「何でも端末」「自在にコンテンツ」「らくらくアクセス」「安心サービス」と5つの項目を設定している。また、将来イメージとしては超高速バックボーンの整備を目指す「ユビキタス・フレキシブルブロードバンド」、ユーザーがどこの端末からでも自分の生活空間を一定に保持できる「ユビキタス・テレポーテーション」、リアルタイムで欲しい情報を取得できる「ユビキタス・エージェント」、所有権を明確にした魅力あるコンテンツの流通を目指す「ユビキタス・コンテンツ」、子供から高齢者までが気軽に使える「ユビキタス・アプライアンス」、高度な認証とセキュリティでプライバシーが保護される「ユビキタス・プラットフォーム」、機械が自律的に情報を収集・管理する「ユビキタス・センサーネットワーク」の7つが設定され、それぞれに社会イメージと技術目標が定められた。

 渡辺氏は最後に、「各技術分野を各企業が独自に開発するのではなく、プロジェクトを作って協力体制を敷き、ユビキタス化を進めるべき。すでに、重点研究開発プロジェクトとして『超小型チップネットワーキングプロジェクト』『何でもマイ端末プロジェクト』『どこでもネットワークプロジェクト』の3つを5年間のプロジェクトとして予算請求した」と語った。

ユビキタスネットワーク社会のイメージ

●ユビキタスで何をしたいのか?〜東京大学・森川博之氏


森川博之氏

 二つ目の基調講演として、東京大学大学院新領域創成科学研究科の森川博之助教授が「ユビキタス時代に向けた社会環境の変化と期待」と題する講演を行なった。森川氏は、ユビキタス環境を「3C Everywhere」と「超環境」と説明する。

 「3C Everywhere」の3Cとは、「Computing」「Contents」「Connectivity」のことだ。森川氏は、「私もバッグの中にさまざまな接続機器を持っている。『どこでもコンピューター』が提唱されてから10年近く経って、やっと技術が実現されつつある。ネットワーク屋としては、IPv6やQoSなどの技術が成熟してきたので、次に何に取り掛かるべきかという点でユビキタスに期待している」と語った。また、「超環境」とは、センサーネットワークの充実などに代表される、リアルの情報とネットの情報のインタラクションが行なわれるような環境のことだという。「今までは、どちらかといえばサービスが仮想空間上に閉ざされていた。これからは、物理環境と仮想環境とが相互接続された新たな環境が創出される」と述べた。

 次に、「ユビキタスで何をしたいのか」という話題に移る。森川氏は、「我々はまだまだ多様な端末を有意義に使いこなせていない。例えば、他の大学に出かけていった時など、目の前にプリンターがあるのに、持ち込んだノートPCからプリントするには大変な手間がかかる」と例を挙げながら説明する。このように自分が携帯する端末に加えて、その時々に利用可能な端末群を適所適材で利用できるのがユビキタスネットワークへの期待というわけだ。同様に、「移動」という側面も重要だという。例えば、「携帯電話で会話をしながら、自分の部屋に帰ってくる。そこには通常の電話もあり、VoIPを使ったビデオ会議もあるのに、端末を切り替えることができない」と語った。その他に、「コンテンツを自在に扱いたい」という期待もある。「ネットワーク上に遍在するあらゆるコンテンツの中から自分が所望するコンテンツを的確に探し出して利用したい。ユビキタス環境では、今日のサーチエンジンでは間に合わなくなるだろう」という。

 さらに話題は「ユビキタスには何が必要か」という点に移った。森川氏は「ユビキタスに必要な技術は広範で、『これをやればユビキタス』とはならない」と前置きし、足りないものを大きく「一般ユーザーがネットを自由自在に使いこなすための技術」と「物理世界とのインタラクションを行なう技術」の2つに分類する。例えば、「IPv6というプロトコルは、全てのデバイスを接続するだけのインフラ技術。デバイスをどのように利用するかは規定されていない」として、これから求められていくものを「プロトコルというよりは、ミドルウェア的なもの。既存のネットワーク上にオーバーレイネットワークを構築するイメージ」と提案する。その1例としてネーミング技術を取り上げ、「DNSなどの既存のネーミング技術はネット上の場所を示していた。これからは、『ユーザーが何をやりたいのか』でサービスを要求するようなネーミング技術を考えなくてはならない」と語った。

●ユビキタス時代のコンテンツとは何か〜林俊樹氏


林俊樹氏

 元バンダイネットワークス社長で、現在メディアコンサルタントを行なっている林俊樹氏は、「ユビキタス時代に期待されるコンテンツ」と題した講演を行なった。同氏はユビキタスネットワーキングフォーラムでも活動している。

 林氏はまず、コンテンツを利用シーンの観点から分析した。「コンテンツサービスに従事してきた経験上、いかなるコンテンツもメールというコンテンツには勝てない」と語り、「ユビキタス時代になっても、メールを中心としたコミュニケーションを核とするコンテンツや、個人の発信するコンテンツが主流になるだろう。そしてプロとアマの境界は不鮮明になる」と予測する。例えば、「ダックスフントの飼育記録を子犬の頃から詳細に付けていた人は、それを10円とか20円といった有料コンテンツとして発表することができるだろう。また、新しいフェラーリが発売された直後に、それを手に入れたマニアによる試乗記などもコンテンツとしてありえる」と例を挙げ、体験共有型のコンテンツの可能性を語った。このようなコンテンツのあり方の背景として、「コンテンツそのものがインテリジェント化し、著作権情報や課金情報、不正防止などのメタデータをコンテンツ自信が持つようになる」という。

 次に利用者の利便性の観点からコンテンツのあり方を分析する。「ユビキタスネットワーク上のコンテンツは、エージェントによって集められるだろう。その時、ポータルに集められた情報よりは、特定の誰かが推薦する情報のほうが重要になりそうだ」という。その理由として、ポータル化する場合には、どういう編集基準で集めるかという点が重要になるが、各ジャンルのプロと呼ばれるような人が集めた情報のほうが、より欲しい情報になるからだという。このように「個人によるレコメンドが重要になり、ネットワークの両端に人が存在することが一層感じられるようになる」と語る。

 林氏は携帯電話向けのコンテンツサービスを手がけていた経験から、「ユーザーの目は非常に厳しい。同月内なら同じ料金で月末まで利用できるコンテンツでも、つまらないと感じたら即座に解約されてしまう」と振り返る。そして「レコメンドする人が適当なチョイスをすれば、その人の信用は一気になくなる。コンテンツ屋の次の仕事は有能なレコメンダーの開拓をすることになる」と分析し、「氾濫するコンテンツの海をうまく泳ぐためのナビゲーション、P2P情報の仲介業が現れる」と予測した。

(2002/9/5)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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